ブラジル北東部バイーア州都サルヴァドールの貧困街で30年前に創立した自給自足を目指す共同体「キロンボテノンデー」。15年前に本拠地移転以降半ば放置されて来た敷地が存続の危機に陥っています。キロンボを再生し、ブラジルの貧困街からオンラインでもブラジル=日本の子ども・若者たちが繋がり学べる場に再スタートさせる、そんなプロジェクトを応援してみませんか。
澤 明日香(キロンボテノンデー、サルヴァドール支部代表)
<前ページ | 1 | 2 | 3 | 4 | 5 | 次ページ >
3. なぜキロンボ再生計画?ブラジルの若年層貧困・犯罪の現状
やはりアフリカ大陸の国々の方が圧倒的に子どもの貧困率が高いのは事実です。それでもアフリカ諸国が省かれているOECD(経済協力開発機構)のデータでは、ブラジルの子どもの貧困率は中国に続き近年は世界で2位とされています。
OECD(経済協力開発機構)ファミリーデータ
日本でも近年子どもの貧困率が上昇しており、15%近く。ブラジルは30%を超えます。10人に3人の子どもが貧困な環境で生活しているとされています。ただしひとり親世帯では、日本は韓国、ブラジルに次いで3番目に貧困率が高く、2人に1人という高い割合となっているようです。
なぜ、日本はここまで「子どもの貧困」大国になってしまったのか | (2/3) | PRESIDENT WOMAN Online(プレジデント ウーマン オンライン) | “女性リーダーをつくる”
7月に厚生労働省が発表したデータによると、2018年の子ども(17歳以下)の貧困率は13.5%と、2015年の前回調査から0.4ポイント改善しました。日本の子どもの貧困率は、2012年が過去最悪の16.3%で、その次の調査の2…(2/3)
ただブラジル国内でも、私が活動しているバイーア州が属する北東部はサンパウロやリオ、南部の州に比べ従来より貧困率が高く、極貧(extreme poverty)状況にいるとされる子どもたちは、私が居住するバイーア州はブラジル国内で4番目に多い州で、10人中およそ4人が極貧状態で生活しているとされています。
No Brasil, 22,6% das crianças e adolescentes com idade entre 0 e 14 anos vivem em situação de extrema pobreza. Isso corresponde a 9,4 milhões de
【ブラジル国外からは見えにくい人種の壁】
このように国際的に認識されているブラジルの貧困率も、ブラジル国内では別の形で統計が出されており、またそれには人種的偏りもあるとされるのがブラジルでは常識となっています。例えば、貧困率が高い北東部は、黒人系の有色人種が多い地域です。
私の住むサルヴァドールも、都市部の高級高層マンションが立ち並ぶ地域は白人が大半で、その周りのインフラも脆弱な地域に、黒人や混血の有色人種が所狭しと居住しています。貧困地区居住者には白人系の住人もいますが一般的に少数です。
高級マンションに出入りする有色人種は、家事手伝い、清掃、警備、運転手の仕事で雇われているのが常で、雇用されていないマンションやショッピングモールに入ると、警備に尾行尋問されることも多いと、実際何人もの黒人系の知り合いから聞きました。
【黒人の若者が簡単に命を落とすファヴェーラ】
サルヴァドール都市部は犯罪率も極めて高く、裕福な地域は警備も整っており比較的安全ですが、私の住む地域はほぼ毎週どこかから銃声が聞こえるのが常です。主に地元のギャング間の薬物関連での揉め事が多いようです。
2021年10月には貧困地区で頻繁に行われるparedãoと呼ばれるファンクパーティでギャングが6人を銃殺、12人を負傷させる事件があり、州知事がファンクパーティ禁止令を出したばかりです。殺害されたのはやはり貧困層の黒人系16歳から30歳の若年層です。
Saiba quem são as vítimas do tiroteio em festa ‘paredão’ no Uruguai – Jornal Correio
Entre as vítimas, está um adolescente de 16 anos
実際、私自身も殺害現場を目撃したり、サルヴァドール滞在1週間目には運悪く流れ弾で負傷したりもしました。出血するものの、かすり傷で済んだのが不幸中の幸いです。銃を突きつけられたりしたことも何度かありますが、幸い大事には至っておりません。
ブラジル国内では犯罪や暴力沙汰により殺害されるのは圧倒的に黒人が多く、その77%が黒人とされ、白人、インディオ、黄色人種よりも2.6倍の確率で犠牲者となる傾向があるとされています。
Em 2019, taxa de homicídios por 100 mil habitantes negros foi de 29,2, enquanto a dos não negros foi de 11,2, de acordo com o Atlas da Violência 2021.
またブラジルでは統計上、23分ごとに黒人の若者(特に男性)が1人殺害されていると言われて久しい現状です。そんな若者たちが住むのは都市部、その郊外部のファヴェーラ(favela)と呼ばれる低所得者居住地域が一般的です。
Sismmac – Notícias – A cada 23 minutos morre um jovem negro no Brasil
Violência contra trabalhadores negros cresce sem ações e políticas para que estatísticas sejam revertidas
4. サルヴァドールのキロンボテノンデーとファヴェーラの繋がり
[老朽化したキロンボの塀の向こう側は全てファヴェーラと呼ばれるいわゆるスラム街。犬たちがいても侵入する者が後を絶たないため、安全確保のための修繕と補強が必要。]
[海岸線にある赤線で囲まれた部分がキロンボの敷地。周辺一帯は全てファヴェーラ。]
そんなファヴェーラ地域で、2015年より主に黒人系の子どもや若者たちを中心にカポエイラを教えたり、生活のサポートをして来ました。ファヴェーラの若者たちには特に問題も多く、早くから薬物に手を出すのも常で、女の子は性暴力の被害者になったり、売春などにより若年で望まない妊娠をするケースも多々あります。
家族からの理解やサポートも少ないため、家出をする若い子たちを受け入れる場合もありますが、サポートにも限度があるため、困難な状況に何度も直面してきました。今現在もリモートでそんな問題をサポート解決中です。家族や親たちも貧困状態のため、子どもたちを十分にサポートできる余裕が無いと感じます。
[2006年、この子たちの世代のうち現在20代後半になった2、3人がまだキロンボを訪れる。]
【貧困が犯罪に簡単に繋がる環境】
子どもたちにカポエイラや農業、工芸を学ぶ場を創っているのも、家族が貧困な環境にいるとどうしても簡単な道は、地域のギャングたちに従い薬物や銃器に関わって行き、最終的には暴力沙汰や殺人に巻き込まれるというのを身近で見聞きして来たためです。
ブラジルだけでなく、貧困や格差が大きな問題とされる国々の都市部では、実際の食糧配給や健康衛生面の改善のみならず、子どもや若者たちが犯罪や暴力に巻き込まれる機会を少しでも減らそうといった活動をされている個人や団体が多くあります。
日本でも昨今、子どもたちの貧困が深刻な問題となって来ています。それでもブラジルとの大きな違いはやはり犯罪率の低さかと思います。サルバドルの低所得者地域で6年間活動して来て、日本よりも明らかに貧困が、若年層からの犯罪や暴力へと繋がる率が高いと感じます。
私が関わって来た子たちはいわゆるストリートチルドレンではなく、大抵が小さいながら家も家族もある子たちで、非常に元気に暮らしています。ただ、義務教育も家庭の状況も一般的に日本ほどは整っておらず、人種による偏見も根強いため、社会に出る年齢になっても無職の場合が多く、貧困から抜け出すのは至難の業です。
そんなフラストレーション発散の場の典型が、先述したファンクパーティで、多くはギャングが薬物取引の場や売春に使うなどトラブルも多いのですが、州知事が禁止令を出したあとも、またコロナ感染者が増加していても変わらず、若者たちを中心に近所各地で開催されています。
[2004〜2006年、壁画や工作、食育などいろいろプロジェクトが行われていた。]
【草の根市民運動は支援が受けにくいブラジル】
こういった現状のなかブラジルで6年間、国内で政府や州、地方自治体からの支援も受けようと試みてきました。しかし財政の多くは有名人の慈善活動とされるプロジェクトなどに振り当てられる場合も多く、ファヴェーラで草の根的活動をしていても、支援を受けるための競争率も含めなかなか敷居が高いのが現状です。
クラファンも普及しておらず、支援が集まる例は非常に限られており、ファヴェーラで子どもや若者のサポート活動をしている知り合いの多くは自らも裕福では無い中、私財で細々とまかなっているため、なかなか思うような活動ができないような現実です。
サルヴァドールのキロンボテノンデーでプロジェクトを再構築させ、ドラッグや犯罪とはかけ離れた居場所を地域の子ども・若者たちに継続的に提供して行くことも重要課題としています。
海辺の郊外地として未だ自然豊かな土地の特性を活かした、都市的生活の中でも生態系が豊かになれるような生活様式を提案する場として、ファヴェーラ住民の力強い生命力が活かせる場所を住民たちと共に構築して行く予定です。
[2004〜2006年、食育もひとつのプログラムだった。]